2泊3日の京都、奈良の旅行に来ました。本日は初日で、今日明日は京都観光を効率よくめぐるため、観光タクシーを予約しました。あいにくの小雨ですが、伏見稲荷大社、三十三間堂を見て、二条城へ向かいました。春の訪れには少し早い肌寒さの中、雨に煙る石垣と瓦屋根が、かえって往時の気配を濃くしてくれるような、静謐な時間でした。
二条城は、徳川家康が京都御所の守護と将軍上洛の宿所として築いた城で、江戸幕府の権威を象徴する存在でした。完成は1603年(慶長8年)。幕末には十五代将軍徳川慶喜が大政奉還を宣言した舞台ともなり、始まりと終わり、ふたつの歴史の節目に深く関わった場所です。その意味で、ここを歩くことは、日本の近世史を足元から辿るような体験でもありました。
私は東大手門から城内に入りました。重厚な番所を抜け、まず目を引かれたのは唐門の華やかさでした。極彩色の彫刻が施されたその姿は、まるで幕府の威信を彫り込んだような迫力があり、薄曇りの空の下でも堂々と輝いていました。
続いて国宝・二の丸御殿に足を踏み入れると、長い廊下に導かれながら、次々に現れる豪奢な襖絵と床の間の意匠に圧倒されました。狩野派の筆による虎や松の絵が、来客に威厳を示す装飾として機能していたといいます。将軍と諸大名がこの空間でどのようなやりとりを交わしたのか、想像するだけで胸が高鳴ります。
御殿を出ると、目の前に広がるのは二の丸庭園。池を中心に石橋や築山を配した典型的な書院造庭園で、雨に濡れた苔がしっとりと深い緑を湛えていました。雨の日の庭園というのは、音も匂いも含めて、どこか優しく心に染み入ってくるものです。観光客の数も少なく、静けさの中に水音だけが響き、庭そのものの呼吸が聞こえるような錯覚すら覚えました。
その後、本丸櫓門をくぐり、本丸庭園を歩き、かつて五層の天守がそびえていた天守閣跡にも登りました。いまは石垣だけが残りますが、ここから見渡す京都の町並みには、過ぎ去った時間の重みが確かに感じられます。
城内には土蔵や仕切門、そして名勝・清流園などもあり、建築と庭園の両面から城の構造や美意識を読み解くことができます。最終的には東大手門へと戻り、再び外の雨音に包まれながら、私はタクシーに乗り込みました。
歴史の舞台としての荘厳さと、雨に潤う静けさが交錯する二条城。その日訪れた記憶は、旅の中でもひときわ深く心に残っています。京都を巡るとき、晴れの日も良いけれど、雨の中こそ見えてくるものもある。そんなことを思いながら、私は次の目的地へと向かったのでした。
聚楽第
かつて京都の町にそびえ立っていた聚楽第(じゅらくてい、じゅらくだい)は、豊臣秀吉が天下統一を成し遂げた後、政治と権力の中心として築いた壮麗な居城です。完成は1587年(天正15年)、場所は現在の京都市上京区にあたり、平安京の大内裏にほど近い一帯に広がっていました。この聚楽第は単なる城ではなく、政庁であり、天皇の行幸を受け入れる格式を備えた政治的な舞台でもありました。
秀吉は、織田信長の跡を継いで全国を平定し、朝廷から関白に任じられることで権威の正統性を確立しようとしました。その象徴的な場がこの聚楽第であり、1588年(天正16年)には後陽成天皇が行幸し、秀吉の政治的正統性を華やかに演出した場面として歴史に刻まれています。聚楽第の内部は金箔を施した襖絵や、豪奢な庭園、茶室などが備えられ、当時の権力と美の粋が結集されていました。
しかし、その栄華は長くは続きません。秀吉は関白の座を甥の豊臣秀次に譲ると、秀次が聚楽第に入って政務を行うようになります。1595年(文禄4年)、秀次が謀反の疑いをかけられて自害を命じられると、聚楽第もその存在を抹消されるかのように破却されてしまいました。石垣や建材の多くは他の建築に転用され、聚楽第そのものは跡形もなく姿を消していったのです。
この聚楽第の記憶をとどめるものの一つが、のちに徳川幕府によって築かれた二条城です。1603年(慶長8年)に徳川家康が築城したこの城には、聚楽第で使用されたとされる建材が一部再利用されたという説があります。実際、二条城の構造や造形のいくつかには、豊臣時代の様式を思わせる痕跡が見られます。さらに、二条城が将軍上洛時の宿所や儀式の場であったことを考えると、秀吉が聚楽第に込めた政治的意図が、形式を変えながらも継承されたとも言えるでしょう。
現在、聚楽第の建造物そのものは残っていませんが、京都市上京区には「聚楽第跡」の石碑が静かに往時を偲ばせています。また、考古学的な調査により、礎石や堀の跡が発見されることもあり、地中にはなお、秀吉の夢の名残が息づいています。歴史の表舞台から消えた聚楽第は、それでも人々の記憶の中で今なお輝きを放ち続けているのです。
旅程
東京駅
↓(新幹線)
京都
↓(タクシー)
伏見稲荷大社
↓(タクシー)
三十三間堂
↓(タクシー)
↓(タクシー)
鹿苑寺(金閣寺)
↓(タクシー)
(略)
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