本日は、現地の日本人向けのツアーで紫禁城(しきんじょう)に来ました。 北京の中心にそびえる紫禁城。この壮麗な宮殿はかつて、明・清の皇帝たちが政を行い、暮らした地でした。そしてその紫禁城こそが、いまや世界最大級の博物館「故宮博物院」として新たな命を得ています。門をくぐった瞬間、500年にわたる歴史と、中国文明の重厚さが静かに、しかし確かに訪れる者を包み込むのです。 故宮博物院は1925年、清朝最後の皇帝・宣統帝(溥儀)が紫禁城を離れた翌年に設立されました。それまで禁中と呼ばれ、皇帝以外の者の立ち入りを許さなかった空間が、一般に開かれたのです。以来、数多くの文化財がこの地に集められ、その数は現在では180万点を超えるといわれています。 展示されている品々は、まさに中国文化の精華です。書や絵画、陶磁器や青銅器、皇帝の衣装や調度品にいたるまで、ひとつひとつが過去の時を静かに語りかけてきます。例えば、宋代の書画には繊細な筆致と精神性がにじみ出ており、眺めるだけで深い余韻が残ります。また、明・清の精巧な陶磁器は、まるで時代そのものが焼き付けられているかのような存在感を放っています。 しかし、故宮博物院が他の博物館と大きく異なるのは、その建物自体が最大の展示品であるという点です。太和殿をはじめとする堂々たる宮殿群は、風水や陰陽五行といった古代中国の思想を反映して綿密に配置されており、その荘厳な空間に身を置くだけでも、歴史と一体になるような感覚が味わえます。床の石ひとつ、屋根の瑠璃瓦一枚にも、皇帝の威光と職人たちの技術が宿っているのです。 現代の故宮博物院は、過去の栄華をただ保存するだけの場所ではありません。人気を博している文創グッズの販売などを通して、新たな世代との接点を模索しています。こうした動きは、古いものを単に懐かしむのではなく、未来に向けてどう語り継いでいくかという問いへの挑戦にも見えます。 かつての皇帝たちの時間が流れていたこの場所には、今も確かに、時間の層が幾重にも重なっています。石畳の上を歩くとき、その一歩一歩が歴史を踏みしめているように感じられるのです。北京を訪れるなら、ぜひ一度、故宮博物院の門をくぐってみてください。過去と現在、そして未来が交錯する、特別な体験が待っています。 義和団事件 19世紀末の中国は、まさに外からの圧力と内からの動揺が渦巻く時代でした。列...