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帝釈天参道/髙木屋老舗/門前とらや:草だんごと人情の街、“おいしい”下町文化

本日は、映画の寅さんで有名な葛飾柴又に来ました。 東京・葛飾区にある柴又は、下町の面影を色濃く残す街として知られています。その中心ともいえるのが、柴又駅から帝釈天(正式名称:題経寺)へと続く帝釈天参道(たいしゃくてんさんどう)です。駅を出てすぐに見える石造りの門をくぐると、昔ながらの和菓子屋や土産物店が軒を連ねる情緒あふれる通りが続きます。下町ならではのあたたかみと、どこか昭和レトロな雰囲気が感じられるこの通りには、歩いているだけで懐かしい気分に浸れる不思議な魅力があります。 帝釈天参道を歩いていると、香ばしい煎餅を焼くにおいや、草だんごを作る甘くやさしい香りが鼻をくすぐります。店頭で試食をすすめられたら、遠慮なくいただくのもこの街ならではの楽しみ方ではないでしょうか。参道には小さなお土産屋さんも多く、何気なく並んでいる民芸品やちょっとした雑貨が、思わず手に取ってみたくなるような温かい雰囲気を醸し出しています。そうした店先を眺めながらのんびり散策していると、賑わいの中にもゆったりと流れる下町の時間を感じられます。 柴又といえば、映画『男はつらいよ』の舞台としても有名です。主人公・寅さんの実家「とらや」のモデルともいわれる老舗の和菓子店が点在し、作品の舞台をしのばせる風景がそこかしこに残っています。古い建物やレトロな看板はもちろん、地元の方たちが作り出すあたたかい人情も、この街が持つ独特の魅力を支えているように感じます。映画のシーンを思い出しながら街歩きをしていると、昭和の世界に迷い込んだかのような懐かしさに包まれます。 参道には昔ながらの店構えが目に留まる髙木屋老舗(たかぎやろうほ)という和菓子店があります。ここは明治元年に創業したとも伝わる老舗で、特に草だんごが名物として有名です。店先に並ぶ緑色のだんごを見るだけでもよもぎの香りを想像できるほどですが、一口頬張ると、やわらかな餅生地と甘さ控えめのあんこの調和が見事で、すぐにもう一本食べたくなるほどの美味しさです。 映画『男はつらいよ』の「とらや」のモデルの一つとしても知られる髙木屋老舗は、作品の世界観を感じたいという映画ファンにとっても外せないスポットになっています。 店内に入ると、ガラスケースには団子だけでなく、どら焼きや最中などの和菓子もずらりと並んでいます。昔ながらの落ち着いた雰囲気の中でじっくりと商品を選ん...

アビー・ロード:名ジャケットの“続き”は生活道路の中に

2024年元日の夕方、ロンドン観光の2日目の締めくくりに、セント・ジョンズ・ウッド駅から坂を下ってアビー・ロード方面へ歩きました。地図の「Abbey Road Pedestrian Crossing」を目指して、Grove End Roadを抜けていく王道ルートです。小雨まじりでしたが、幸い強くは降らず、歩いているうちにむしろ街灯と濡れた路面のきらめきが年始の街の空気を引き締めてくれるようでした。 横断歩道に着くと、想像以上に交通量の多い三叉路で、あのアルバム・ジャケットの舞台そのものが、いまも現役の生活道路の一部であることを実感します。信号機のないゼブラ柄の横断歩道を、“あの歩き方”を再現したい旅行者と先へ進みたい車がせめぎ合い、クラクションも混じって少しカオス――でも、それもまたこの場所の日常風景。英国のゼブラ・クロッシングらしくベリシャ・ビーコンが立つ現場感が、伝説の舞台を単なる“記念碑”にしないのだと感じました。 最近は日本でもオーバーツーリズムやマナーが話題になりますが、この交差点はきっと昔から地域の人の辛抱と観光客の憧れが同居してきたのでしょう。私は一人旅だったので、あえて人が途切れた一瞬を狙って横断歩道だけを撮影しました。すぐそばのアビー・ロード・スタジオの外観も写真に収め、雨粒に濡れた白い壁と黒いサインが浮かぶように見えたのが印象的でした。 この横断歩道が世界的な“聖地”になったのは、1969年8月8日。写真家イアン・マクミランが脚立に上がり、警察官が数分だけ交通を止めるあいだに、ビーートルズの4人が何度か行き来して撮られた数カットのうちの一枚が、アルバム『Abbey Road』のカバーになりました。現場に立つと、レンズが切り取った一瞬と、今も流れ続ける日常との重なりが不思議と腑に落ちます。 スタジオ自体の歴史も古く、1931年に開業して以来、クラシックからポップス、映画音楽まで無数の録音を生んできました。アルバムの成功で地名が世界語になった後、スタジオは1976年に正式に「Abbey Road Studios」と改称され、名前も場所も音の都として定着していきます。2010年には建物がグレードII(特別な建造物で、保護が必要な建造物)に指定され、同年、横断歩道そのものも異例のグレードIIに登録。音楽史と都市の暮らしをつなぐ風景が、公的にも“守るべき文...