伊勢神宮を中心に街歩きを楽しんだ本日の夕方、勢田川沿いの河崎地区に足を延ばし、「河崎川の駅」に立ち寄りました。周辺の町並みに溶け込む外観で、黒い塗りの蔵や商家が続く河崎の風景にすっと馴染んで見えます。入口は土蔵の戸のように重厚で、通りから一歩入ると川風が抜け、旅の終盤にちょうどよい静けさでした。2階には簡単な資料展示があり、町の成り立ちや川と商いの関係を写真やパネルでたどることができました。勢田川に向かって開かれた窓から外を眺めると、川を背に栄えた町の呼吸が、今もゆっくりと続いているように感じられます。 河崎は、伊勢市の中心を流れる勢田川の水運を生かして問屋街として発達し、「お伊勢さんの台所」と呼ばれた商いの町です。江戸時代から残る蔵や商家の並びは、川とともに築かれた生活の記憶をいまに伝えています。川沿いに石段が残り、荷の上げ下ろしや船の出入りを支えた景観が、ところどころに読み取れます。観光でにぎわう内宮・外宮の界隈から少し離れるだけで、伊勢の台所を支えた裏方の時間が見えてくるのが河崎の面白さだと思います。 「河崎川の駅」そのものは古建築ではなく、勢田川に面した“駅舎風”の建物で、かつて伊勢市内を走っていた路面電車の駅舎をイメージして造られています。写真映えする外観に寄せつつ、内部では河崎の歴史をパネルで紹介していて、地区散策の起点にちょうどよい案内所のような役割を担っていました。私が見た土蔵風の重い扉も、この“駅舎風”デザインと河崎らしい蔵の意匠が交わった表情なのだと腑に落ちました。 勢田川の水面がゆっくり色を変える黄昏時、商家の軒と蔵の壁が柔らかく影を落とし、昼間の伊勢の華やぎとはまた違う落ち着きが広がっていました。伊勢参りの表舞台を楽しんだあとに、台所を支えた“裏方の町”で一息つく。そんなリズムで歩くと、伊勢という土地の立体感がぐっと増して感じられます。次に訪れるときは、川の駅を起点に周辺の蔵や商家をもう少し丁寧にめぐり、商人館などの施設にも腰を据えて触れてみたいと思いました。 帰り際、勢田川を渡る風に背中を押されながら、伊勢の「表」と「裏」が川でつながっていることを改めて実感しました。旅の一日の終わりにふさわしい、静かな寄り道になりました。 旅程 東京 ↓(新幹線/近鉄名古屋線) 伊勢市駅 ↓(バス) 内宮前 ↓(徒歩) 伊勢神宮内宮 ↓(徒歩) 倭姫宮 ↓...