トロントの街歩きの合間に立ち寄ったのが、キング・ストリートとシムコー・ストリートの角に建つセント・アンドリューズ教会でした。午前中はホッケーの殿堂やリプレーズ・アクアリウムを回り、高層ビルが林立する都会のまっただ中で、石造りの重厚な聖堂だけが時間の流れを別にしているように感じられました。最初は西側の通りから眺め、城の一角のようにそびえる塔を正面と思い込んだのですが、北側に回り込むと、三つのアーチを構えた堂々たる玄関が現れ、こちらが真正面なのだと分かりました。扉の木目と円花窓の繊細な石細工が冬の薄日の下でやわらかく浮かび上がり、にぎわうダウンタウンに静かな節目を刻むようでした。 この教会の起源は19世紀初頭にさかのぼります。1830年にヨーク(のちのトロント)で創設されたスコットランド長老派の会衆が母体で、現在の建物は1876年に献堂されました。設計はトロントの建築家ウィリアム・ジョージ・ストームで、ロマネスク・リバイバルの力強い様式を基調としています。角に据えられた塔の小さな櫓や、重厚な砂岩の壁がスコットランドとの結びつきを感じさせるのが特徴です。 立地はトロント中心部の真ん中で、昔も今も街の動脈に面しています。かつてこの交差点は、州総督邸やアッパー・カナダ・カレッジ、人気の酒場が向かい合い、「救い(教会)・立法・教育・破滅」が集う場所と語られたそうです。現在の住所はシムコー・ストリート73番で、教会は1970年代以降の都心再生の波に寄り添いながら、文化施設が建ち並ぶ一角のランドマークであり続けています。 北面の階段を上がって見上げると、三連アーチの上に規則正しく並ぶ小アーチ列(アーケード)と、花のような意匠の大きな円窓が目を引きます。素材はジョージタウン産の砂岩が中心で、近代的なガラスの塔に囲まれていても質感が負けません。角塔の最上部にめぐらされた張り出しや小窓の造作は、写真で見るよりも立体感があり、冬枯れの街路樹の枝越しに眺めると、中世の砦のディテールを凝縮した模型のようにも感じられました。 この日は年越しイベントを控えた二日目で、街はどこか浮き立つ空気に包まれていました。CNタワーの足元にある水族館から歩いてくると、観光の喧騒と聖堂の静けさの対比がいっそう鮮やかです。西側から塔を「正面」と見誤るほど、角塔の存在感は強烈ですが、北側の玄関前に立つと、アーチの曲線...