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塩浸温泉龍馬公園:湯けむりをくぐる二人のシルエット

鹿児島観光の最終日は、霧島市内をタクシーで巡りながら、山の緑と川のせせらぎに沿って走りました。案内してくださった運転手さんの一押しで立ち寄ったのが、塩浸温泉龍馬公園でした。駐車場から降りると、湿った空気に温泉の匂いが混じり、ところどころから白い湯けむりが立ちのぼっています。川沿いの斜面には、坂本龍馬とお龍の銅像が静かに並び、濡れた石肌に差す光を受けて柔らかく光っていました。

資料館も併設されているようでしたが、訪れた折は新型コロナの影響で入館できず、屋外の散策に専念しました。

公園の一帯は、幕末のふたりが新婚の頃に足を運んだ地として知られています。慶応二年(1866年)に、龍馬とお龍は霧島の温泉地を巡り、塩浸温泉には十八日間も逗留したと伝わります。現在は園内に資料館や足湯、「新婚湯治碑」などが整えられ、往時をしのぶ展示も見られる場所です。

そもそもこの旅は、寺田屋事件で負った傷の療養を兼ね、西郷隆盛や小松帯刀の勧めもあって計画されたものだといわれます。湯治の行き先に霧島を選んだことは、薩摩と龍馬の結びつきの一端を映す選択でもあり、ここが「日本で最初の新婚旅行」と称されるゆえんにもなりました。

行程をたどると、二人は大坂から蒸気船で長崎を経て鹿児島に入り、日当山・塩浸・栄之尾と温泉地を回りながら高千穂峰にも登ったと記録されています。霧島の厳かで伸びやかな自然の中で、体を癒やしながら次の時代を見据えた思索を重ねたのだろうと想像します。

銅像の前に立つと、ふたりの等身大の距離感が印象に残ります。見上げる龍馬の姿は風に背筋を伸ばし、お龍は少し斜めに腰を下ろして寄り添うように佇みます。足元では、湯気を含んだ風が川面から吹き上がり、遠くで鳥の声が響きました。資料館に入れなかったのは残念でしたが、湯けむりに包まれた屋外の空気そのものが、歴史の余熱をまとった展示のように感じられます。

園内には足湯もあり、旅の終盤の疲れをそっとほどいてくれます。風の強い日で残念ながら足湯も遠慮しました。ここでの逗留は、二人にとって、歩みを整える休符だったのかもしれません。

霧島の山並みは、季節の光とともに表情を変えます。最終日にここを訪れたことで、旅が一本の物語として静かに結ばれた気がしました。激動の時代を駆け抜けたふたりが、湯けむりの向こうで束の間の安らぎを分かち合った場所。公園を後にするとき、歴史は遠いものではなく、土地の匂いと温度をまとった「現在」として確かに立ち上がってくるのだと感じました。

帰路、タクシーの窓から見えた山肌にも薄く湯気が漂っていました。霧島の湯は今も生きていて、訪ねる人それぞれに違う物語を手渡してくれます。塩浸温泉龍馬公園は、そんな霧島の記憶に触れるのにふさわしい、小さくも深い場所でした。

旅程

(略)

↓(タクシー)

坂元のくろず「壺畑」

↓(タクシー)

上野原縄文の森

↓(タクシー)

国分上野原テクノパーク

↓(タクシー)

(略)

↓(タクシー)

丸尾滝

↓(タクシー)

塩浸温泉龍馬公園

↓(タクシー)

嘉例川駅

↓(タクシー)

鹿児島空港

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