新潟県の上越市埋蔵文化財センターを訪れました。朝は上杉謙信ゆかりの林泉寺から始まり、春日山城跡で山風を受けながら往時の気配に耳を澄ませ、その足でセンターへ向かいました。敷地の入口では、馬上の謙信像が凛とした姿で迎えてくれます。甲冑の威厳をまとった横顔は、城下の記憶を今に伝える門標のようで、ここから先が「土地の時間」に触れる場であることを静かに告げていました。
館内に入ると、まず目に入るのは発掘成果に裏打ちされた実物資料の数々です。上越の大地から掘り起こされた縄文時代の土器は、火焔のように立ち上がる装飾や、掌に心地よい丸みをたたえた器形が印象的でした。日本海沿岸と山岳地帯が交わるこの地域では、人々が海と山の恵みを行き来しながら暮らしを築いてきたのでしょう。器の縁に残る細かな文様をたどっていると、土を捏ね、火で焼き締め、日々の食と祈りを支えた手つきが、時間を越えて指先に伝わってくるようでした。
時代を下ると、展示は戦国の空気へと切り替わります。直江兼続の名を冠した鎧が放つ緊張感は、春日山の山城で磨かれた上杉の軍制と美意識を思わせました。戦場で命を守るための実用品でありながら、威厳と品格をまとわせる造形は、権威を示す記号であると同時に、武士が内面を律するための鏡でもあったのだと感じます。朝に歩いた城跡で想像した鬨の声が、ここでは金具の一片や鋲の並びから静かに立ち上がり、歴史が単なる年表ではなく、重さと温度を伴った生活の連続であったことを教えてくれました。
林泉寺の静謐(せいひつ)、春日山城跡の風、そしてセンターの展示がひとつの線でつながると、上越という土地がもつ時間の層が立体的に見えてきます。寺の境内で感じた祈りは縄文の土器に通じ、山城で想った規律は甲冑の意匠に映り、個々の場所の体験が互いを照らし合わせて深まっていきました。発掘資料はどれも土中から現れた無口な証人ですが、配置や解説に導かれて耳を澄ますと、当時の人々の選択や迷い、望みが、確かな重みをもって語り始めます。
見学を終えて外に出ると、入口の謙信像が行きに見たときよりも近しく感じられました。名将の名だけでなく、その背後に広がる長い暮らしの積み重ねに触れたからかもしれません。史跡を歩き、資料を見て、また史跡に思いを返す——その往復運動こそが旅の醍醐味であり、学びの原点だとあらためて思います。上越市埋蔵文化財センターは、土地の歴史を点ではなく面として受け止めさせてくれる場所でした。次に春日山を訪ねるときには、縄文の土器片や兼続の鎧が示してくれたまなざしを携えて、同じ風景を少し違う角度から眺めてみたいと思います。
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