山本亭を南に行くとすぐに葛飾柴又寅さん記念館があります。
都内屈指の下町情緒が息づく葛飾区柴又。その中心を歩いていると、まるで昭和の映画の世界に迷い込んだような懐かしい空気が流れています。ここは映画「男はつらいよ」でおなじみの寅さんの故郷として知られ、いまだに多くの観光客を魅了し続ける場所です。そんな柴又の魅力を語る上で外せないスポットのひとつが「葛飾柴又寅さん記念館」です。
駅から少し歩き、柴又帝釈天へと続く門前町の賑わいを抜けた先にあるこの記念館には、映画「男はつらいよ」の世界観を丸ごと味わえるさまざまな展示が並んでいます。まず館内へ入ると、スクリーンを通して見た懐かしい場面や登場人物の様子が目に飛び込み、まるで映画のセットにそのまま足を踏み入れたかのような感覚に包まれます。登場人物たちが暮らす団子屋「くるまや」の店先や、寅さんがいつもふらりと帰ってくる家の雰囲気を再現したコーナーは、長年シリーズを愛してきたファンにとって感慨深く、初めて訪れる人にとっても昭和の生活文化が垣間見える印象的な空間となっています。
また、撮影現場の裏側を語る写真やポスター、台本など、ここでしか見られない貴重な資料も充実しているのが魅力です。ステージ裏の俳優やスタッフの様子を映したスチール写真は、作品のファンならずとも「映画づくり」という過程の面白さを感じさせてくれます。懐かしいポスターや実際に使われた小道具を眺めていると、「男はつらいよ」がいかに時代を越えて多くの人の心に刻まれてきた作品なのかを再認識させられます。さらに、主演を務めた渥美清さんの生い立ちや人柄を伝える展示には、スクリーンの中の寅さんとはまた違った、素の姿のあたたかみを感じることができるエピソードが盛りだくさん。作品を一層身近に感じながら、昭和から平成にかけての日本の庶民文化に思いをはせることができるのも、この記念館の魅力です。
葛飾柴又寅さん記念館では、当時の柴又の様子も展示されています。特に、帝釈人車鉄道について、駅や車両、ミニチュアなどが展示されています。
帝釈人車鉄道(たいしゃくじんしゃてつどう)とは、東京・葛飾区柴又の帝釈天(題経寺)を訪れる参詣客の利便を図るため、大正時代に計画・運行されていた“人力による鉄道(人車鉄道)”の呼称です。現在のような鉄道や路面電車がまだ十分に整備されていなかった時代、簡便な輸送手段として全国各地に“人車鉄道”が存在していましたが、柴又の「帝釈人車鉄道」もその一つとされています。
当時の柴又は、帝釈天への参詣や江戸川の水辺レジャーなどで多くの人が行き来する地域でした。しかし、まだ鉄道網が脆弱だった頃は、遠方から訪れる参拝客にとって、最寄り駅から帝釈天までの道のりが長く感じられることもしばしば。そこで、駅や主要道と柴又帝釈天を結ぶ簡易鉄道として発案されたのが、この「帝釈人車鉄道」です。レールの上に小さな車両を載せ、人が車両を押して移動させるという、いわば“線路を走る人力車”のような仕組みでした。
もっとも、こうした人車鉄道は当時としても一時的・補助的な輸送手段とみなされるケースが多く、その後は都市インフラの発展とともに姿を消していきます。柴又周辺にも路面電車や京成電鉄などが伸びてきたことで、参詣客の流れは次第にモダンな鉄道・バス交通へ移行し、「帝釈人車鉄道」は大きな役割を担うことなく廃止へと至りました。そのため詳細な資料は多く残っておらず、わずかに古い写真や史料に記録が残っている程度です。
現在、柴又帝釈天周辺を歩いても、当時“帝釈人車鉄道”がどこをどのように走っていたのかははっきりとは分かりません。しかし「人が車両を押して走る鉄道が、賑わいのある参道へ人を運んでいた」というだけでも、当時の活気や帝釈天門前のにぎわいぶりが思い浮かび、歴史ロマンを感じずにはいられません。いまでは京成線の「柴又駅」で簡単にアクセスが可能ですが、もし当時の人々がこの人車鉄道を利用していた様子を想像してみると、昭和どころかさらに昔、大正〜昭和初期にかけての下町情緒が一段と深く感じられることでしょう。
葛飾柴又寅さん記念館の敷地内には実は「山田洋次ミュージアム」も併設されています。寅さん記念館と同じチケットで、敷地内にある山田洋次ミュージアムも入ることができます。
映画ファンの方にはおなじみのとおり、『男はつらいよ』をはじめ多くの名作を手掛けた山田洋次監督は、渥美清さん扮する車寅次郎の“生みの親”でもあります。ここでは、その山田監督が歩んできた軌跡や作品作りへの想いを、直に感じられる展示が充実しています。
ミュージアムに足を踏み入れると、山田洋次監督の生い立ちから映画の制作過程までを俯瞰できる資料や写真、映像がずらりと並び、まるで監督の頭の中をのぞいているかのような感覚を味わえるのが魅力です。監督が築いてきた数多くの作品のうち、なかでも『男はつらいよ』シリーズの存在はやはり特別。寅さん記念館に続く流れで観覧すると、「どういう想いであの作品が作られたのか」「下町の風景を切り取るための演出にはどんな工夫があったのか」といった興味が、より一層深まることと思います。
また、この場所ならではの見どころとしては、作品で実際に使われた小道具の展示やロケ風景の写真、監督やキャスト陣が交わしていたやりとりを垣間見られる資料などが挙げられます。テレビやスクリーンを通して楽しむ映画の世界が、リアルな記録を通じてさらに身近に感じられるのは、ファンにとってはうれしい体験です。さらに、山田監督の“人間味あふれる物語”や“日本の原風景を大切にするまなざし”の源流に触れることができるので、単に作品鑑賞だけでは得られない感動を味わえるでしょう。
この「山田洋次ミュージアム」は、寅さん記念館を訪れた人にとっては“もう一つの見どころ”ともいえますが、むしろ両者をあわせて観覧することで、“山田洋次×寅さん”の世界観を存分に堪能できるという相乗効果が生まれます。敷地内を回遊するなかで、“寅さんの魅力”と“山田監督の想い”が交差し、映画ファンとしてはもちろん、初めて作品に触れるという方にも楽しめる仕掛けが多く用意されています。
柴又駅から帝釈天へと続く門前町の風情も相まって、ここ柴又エリアには昭和を感じさせる懐かしさと、映画の世界観がいまなお色濃く残っています。東京の下町情緒に癒されながら、「男はつらいよ」シリーズに象徴される山田監督の世界にじっくり浸りたいときは、ぜひ寅さん記念館とあわせて山田洋次ミュージアムを訪れてみてください。きっと、映画を観るだけでは知り得なかった監督の視点や、物語の背景にある人間ドラマの奥深さに新たな発見があるはずです。
記念館を満喫した後には、ぜひ周辺の柴又散策もあわせて楽しんでみてください。駅前に立つ寅さんとさくらの銅像はもちろん、柴又帝釈天(題経寺)をお参りしたり、門前の参道でだんごや草もちといった名物を食べ歩くのもおすすめです。さらに歩を進めれば「山本亭」など洋風と和風が調和した建物で抹茶をいただくこともでき、のんびりとした一日を過ごすことができるでしょう。
都会の喧騒から離れ、昭和の映画の世界を肌で感じたくなったら、柴又へ足を運んでみてはいかがでしょうか。懐かしさに触れながら、優しい気持ちになれる風景や人情味があふれるこの街は、いつ訪れてもホッとできる不思議な魅力に満ちています。きっと「ただいま」と言いたくなるような温かい場所が、あなたを待っています。
旅程
東京
↓(鉄道)
金町駅
↓(徒歩約20分)
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矢切駅
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