イタリア・パレルモ観光の3日目に、Church of Sant'Anna la Misericordiaを訪れました。この日は、壮麗なマッシモ劇場や、港側の城門フェリーチェ門などを巡ったあと、旧市街の一角へ足を延ばします。 現地でまず印象に残ったのは、教会が“独立した建物”というより、周囲のアパートやビルと連続する街区の中に、突然「石の時間」だけが露出しているように見えたことです。外壁の肌理や量感が、隣の建物のそれとは明らかに違い、そこだけが古い層として街に差し込まれているようでした。Sant’Annaは古い市場地区ラッタリーニ(Lattarini)周辺、いわば生活のただ中に建つ教会で、こうした“都市の縫い目”の感覚が強く出る場所なのだと思います。 歴史を辿ると、この教会は1606年から1632年にかけて建設が進められたバロック教会で、敷地には以前から小さな礼拝所があったとされます。 そして、あなたが目を留めたファサード(正面意匠)は、とくに劇的です。18世紀前半に建築家ジョヴァンニ・ビアージョ・アミーコが、起伏のある曲面と柱・ニッチ(壁龕)の陰影で“動く壁”をつくり出し、広場に向かって舞台の書割のように立ち上げました。 かつてはさらに上部の層(第三層)がありましたが、1823年の地震で崩落したとも伝えられています。 ファサードに並ぶ石像にも、つい足が止まります。ニッチに配された像は聖ヨセフ、聖エリサベト、聖アンナ、聖ヨアキムとされ、家族と慈しみをめぐる主題が正面に刻まれているのが、Sant’Annaという名にふさわしいと感じます(上部にも別の聖人像が置かれています)。 この日は内部には入りませんでしたが、建物の性格だけは外からでも十分に伝わってきました。内部は三廊式の平面で、灰色大理石の列柱が身廊を区切り、ドームは構造上の問題から実現せず、代わりにトロンプルイユ(だまし絵)的な天井表現が用いられている、という説明も残っています。いつか再訪できるなら、あの劇場的な正面が、内側ではどんな「奥行きの演出」へ変換されているのか確かめてみたいところです。 なお、この教会は地震や戦災など、近代以降もたびたび損傷と修復を経験してきた記録があります。街の日常に接続された建物である一方、自然や歴史の衝撃もまた正面から受け止めてきた場所なのだと、外観の重みが静かに物語ってい...