朝から静岡県側の三島を起点に、三島スカイウォークと山中城跡を見学したあと、山中城からバスで箱根峠へ向かいました。県境をまたぐ箱根の稜線は、地図で見ている以上に「交通の要衝」という顔を強く持っていて、実際に降り立った箱根峠は、その印象をさらに確かなものにしてくれました。 いまの箱根峠は、整備された幅の大きい東海道(国道1号の流れを汲む幹線)が通り、芦ノ湖スカイラインとの分岐点として巨大な交差点になっています。車で走る人にとっては実に分かりやすい結節点ですが、徒歩で立ち止まって景色を味わうには少し落ち着かない場所でもありました。とはいえ、少し高い位置に上がると、芦ノ湖(あしのこ)の方向へ視界が抜けます。湖へ向かってシャッターを切った瞬間だけ、交通の音が遠のいて、箱根らしい大きな空気に触れられた気がしました。 当初はそのままバスで箱根関所方面へ下るつもりで、いったんバス停へ戻りました。ところが待っているあいだに、箱根関所まで旧東海道の「箱根旧街道(箱根旧道)」が続いていることに気づきます。地図で距離を測ると、感覚としては30分ほど。せっかく箱根に来たのだから、現代の道路ではなく、かつての旅人が通った道を自分の足で辿ってみたいと思い、バスをやめて徒歩で下ることにしました。 旧街道へ入る場所には、旧街道と挟石坂(はさみいしざか)の説明板が置かれていました。「遺構」ではなく、いまも通れる道として息づいていることが、こうした案内からも伝わってきます。江戸と京を結ぶ大動脈だった東海道は、五街道の中でもとりわけ往来が多く、箱根はその難所として知られていました。急峻な地形に加え、天候の厳しさもあり、旅人にとって箱根越えは体力だけでなく判断力も問われる区間だったはずです。 少し下ると、雪が詰まった石畳の道になりました。これが旧東海道が現役だったころのものかは分かりませんが、もし当時の整備を受け継ぐものだとしたら、山道としては驚くほど「道」としての意志を感じます。一方で、雪が積もる状況では石畳はよく滑ります。旅情よりも安全が優先ですので、石のない隅の土の部分を選びながら、慎重に足を運びました。古道を歩くとき、歴史を追体験しているようでいて、実際には「いまの自然条件の中で自分がどう歩くか」という現実の感覚も同時に突きつけられます。その両方が重なるところに、旧街道を歩く面白さがあるのだと思いま...