山梨県塩山にある旧高野家住宅(きゅうたかのけじゅうたく)「甘草屋敷(かんぞうやしき)」を訪ねました。この日は武田家ゆかりの場所とその周辺を歩くことを目的に、朝から塩山へ向かい、恵林寺や放光寺を参拝したあとで、町なかに残る大きな茅葺風の屋敷に足を運びました。寺院の静けさを味わった流れのまま、今度は人々の暮らしの歴史へ視点を移していく、そんな一日の折り返し地点のような訪問になりました。
甘草屋敷は、江戸後期から19世紀初頭の建築とされる大型の民家で、甲州地方の特色を示す構造や外観が評価され、国の重要文化財(指定名称:旧高野家住宅)にもなっています。大きな切妻屋根に、前面中央の突き上げ屋根が目を引きますが、これは採光のための工夫で、内部が三層構造になり、かつては養蚕にも用いられたと伝えられています。柱や梁の組み方、漆喰で整えられた妻壁など、外から眺めるだけでも「この地方で積み重なってきた住まいの知恵」が感じられる建物でした。
ちょうどひな祭りの時期で、主屋と茅葺の小屋には雛壇が飾られていました。古民家の太い柱や広い座敷に、雛人形の色彩がすっと差し込むと、建物そのものが季節の展示空間に変わるようで、写真で見る「展示」とは違う臨場感があります。甘草屋敷は、甲州市の「ひな飾りと桃の花まつり」の主要会場の一つとしても知られ、各時代の雛人形などが並ぶことがあるそうですが、実際にその場に立つと、地域の春の風物詩として大切に受け継がれてきたことがよく分かりました。
「甘草屋敷」という呼び名は、江戸時代に漢方薬の原料となる甘草(カンゾウ)を栽培し、幕府に納めたことに由来するとされています。敷地内には甘草の説明板がある畑もありましたが、この日は植物らしきものが見当たらず、時期が違うのかもしれないと思いながら眺めました。それでも、薬草の栽培という少し意外な営みが、この家の記憶として今も名前に残り、建物の保存とともに語り継がれていること自体が面白く、寺社とは別の角度から「甲州の歴史の厚み」に触れた気がしました。
旅程
(略)
↓(徒歩)
放光寺
↓(徒歩)
↓(徒歩)
塩山駅
↓(JR中央本線)
甲府駅
↓(徒歩)
↓(徒歩)
武田信玄公の墓
↓(徒歩)
↓(徒歩)
↓(徒歩)
甲府城跡(舞鶴城公園)
↓(徒歩)
甲府市藤村記念館(旧睦沢学校校舎)
↓(徒歩)
(略)
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