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安藤醸造本店:赤レンガに刻まれた百年の手仕事、香ばしき伝統に包まれて

田沢湖のたつこ像が湖面に立つ姿を眺め、秋田県角館(かくのだて)の歴史ある旧家をいくつか巡ったのち、私は安藤醸造 本店を訪れました。

安藤醸造は、1853年(嘉永6年)創業の老舗。江戸時代末期から続く味噌・醤油造りの伝統を、今も変わらず受け継いでいます。本店の建物は、赤レンガが印象的な佇まいで、町の中にあってもどこか洋風の落ち着いた風格を放っていました。

入口をくぐると、ふわりと鼻をくすぐる醤油と味噌の香り。今も現役で使われている店舗スペースには、丁寧に並べられた商品がずらりと並び、どれも手に取ってみたくなるような存在感があります。

さらに奥に進むと、そこには仕込みに使われていた醤油の大きな壺や、明治・大正の時代を思わせる帳簿台帳、和傘や桶といった当時の道具類が展示されていました。それらはただの古道具ではなく、長年の営みと職人たちの手仕事の痕跡を今に伝える証人のようでした。

蔵の内部はひんやりと静かで、木の香りと発酵の名残を感じる空間。そこに並ぶ和室や、襖に描かれた西宮礼和(にしのみや れいわ)の繊細な絵には、単なる見学以上の趣がありました。特に和室は、商家としての格式と生活の風景が重なり合うような場となっており、かつての人々の暮らしを想像せずにはいられませんでした。

安藤醸造 本店は、商品を買いに立ち寄るだけの場所ではありません。そこには「醸造」という営みに込められた時間の重なりがあり、秋田の風土に根ざした人々の暮らしが、静かに息づいています。伝統の味の背景に広がる文化や歴史にふれるひとときは、旅の記憶をより豊かにしてくれました。

角館を訪れるなら、ぜひ足を運んでみてください。味覚だけでなく、五感すべてで「時の香り」を感じることができる場所です。

旅程

東京

↓(新幹線)

田沢湖駅

↓(タクシー)

たつこ像

↓(タクシー)

角館武家屋敷通り

↓(徒歩)

(略)

↓(徒歩)

西宮家

↓(徒歩)

安藤醸造本店

↓(徒歩)

神明社

↓(徒歩)

角館駅

↓(新幹線)

東京

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