角館の町並みを歩いているうちに、地図の通りに進んだつもりが、どうやら西宮家には裏口から入ってしまったようでした。
黒板塀の内側に一歩足を踏み入れると、武家町の静けさがそのまま息づいていて、まず目に入ったのは蔵の展示です。古い掛け軸や衣装箱、人力車が並び、道具の使い込まれた質感から、かつての暮らしの手ざわりが伝わってきました。展示を見終えてさらに奥へ進むと、広いお土産スペースやレストランが現れ、観光客が休んだり、旅の合間に小腹を満たしたりできる気さくな雰囲気で、歴史の場がいまの旅人に開かれていることを実感しました。
西宮家は、角館の田町武家屋敷通りにある名家で、もとは久保田藩主・佐竹家の直臣に仕えた武士の家柄と伝わります。江戸ののち、明治から大正にかけて母屋と五つの蔵(文庫蔵・北蔵・前蔵・がっこ蔵・米蔵)が整い、屋敷構えと蔵のボリュームから当時の繁栄がうかがえます。とくに明治期の当主・西宮藤剛は角館町の初代町長を務め、地域に大きく貢献した人物として知られ、屋敷は角館の歴史・文化を今に伝える場として保存・活用されてきました。蔵のいくつかはショップや飲食、ギャラリーとして再生され、武家町の景色の中で、暮らしの文化に触れられるのが魅力です
表門からのアプローチも凛として美しいのですが、今回のように裏手からふと足を踏み入れると、蔵と庭が連なる奥行きの広さがいっそう印象に残ります。展示室では、古文書や生活道具の実物が静かに語り、土間の冷たさや木の香りが当時の空気を呼び戻してくれます。ひとめぐりしてレストランでひと息つくと、旅の時間がすっとほどけ、歴史の町に暮らす人の時間と自分の時間が重なるようでした。角館の武家屋敷群の中でも、西宮家は「見る」だけでなく「滞在し、味わい、買う」体験が一続きになっているのが魅力だと感じました。
帰り際、蔵の軒先に下がる小さな看板や、庭に据えられた石組みを眺めながら、春の枝垂れ桜の季節や、秋の色づきの頃にも歩いてみたいと思いました。武家町の静けさの中に、人の営みがつづいてきた気配が宿り、旅の余韻を長く残してくれる場所でした。
旅程
東京
↓(新幹線)
田沢湖駅
↓(タクシー)
↓(タクシー)
↓(徒歩)
(略)
↓(徒歩)
武家屋敷 小田野家
↓(徒歩)
↓(徒歩)
新潮社記念文学館
↓(徒歩)
↓(徒歩)
↓(徒歩)
↓(徒歩)
角館駅
↓(新幹線)
東京
コメント
コメントを投稿