今日は、自宅から徒歩で行ける、東京・新宿の中井エリアにある林芙美子記念館を訪れました。
昭和を代表する女流作家である林芙美子(はやし ふみこ)が晩年を過ごした住居が保存されており、まるで当時にタイムスリップしたかのような感覚を味わえる場所です。日本家屋の落ち着いた佇まいや畳の香り、執筆に没頭したであろう書斎の空気感まで、そのすべてが林芙美子という存在を身近に感じさせてくれます。
建物は木造の和風建築で、玄関を入った瞬間から昭和の時代に溶け込むような懐かしさを覚えました。
家は二棟に分かれていますが、これは戦前の規制のため大きな家を建てることができないため、片方を芙美子名義、もう一つを夫の緑敏(りょくびん)名義で建てました。
家の建築には、かなりの部分で林芙美子が細部でこだわり、大工の親方はあきれて弟子に任せきりでした。
内部には林芙美子が実際に使用していた机や愛用品が展示されており、書簡や日記といった資料とともに公開されています。原稿や手紙からは人となりが伝わり、小説や随筆の背景にある彼女の思いを想像すると、作品世界が一段と深まるような気がしました。林芙美子の文章には力強い生命感が宿っているとよく言われますが、家庭的な暮らしの一端や書斎の雰囲気を目にすると、その源泉が日常のまなざしにあったのだと納得させられます。
例えば、家全体に風が通るように遮蔽物が無いつくりになっており、小窓から除くと反対側まで遮るものがないことが分かります。
寝室の前の、布団入れはインドのパトラ織が使われています。
台所には、当時最新の冷蔵庫が置かれていました。
記念館の小さな庭も見どころの一つです。建物の内側からそっと眺めると、まるで風や日差しが昔と変わらずそこにあるかのような錯覚を覚えます。戦時中から戦後にかけての激動の時代を経験しながらも、こうした穏やかな庭で執筆に向き合った姿を想像すると、その創作の息遣いがどこか身近に感じられます。また、庭を含む住まい全体がそれほど大きいわけではないため、静謐な時間を味わうにはちょうどよく、ゆっくり巡ってもそれほど時間はかかりません。
林芙美子が生きていたころは、庭には竹で埋め尽くされていましたが、林芙美子が亡くなったときにお葬式に多くの人が訪ねられるという事で、庭の竹をすべて切って広い敷地を作ったそうです。その後、夫の緑敏が庭の手入れをして、現在のような形になりました。旧玄関の周辺には今も竹が植えられており、当時の面影が残っています。
開館時間は朝10時から夕方4時半までで、最終入館は4時です。月曜日が休館日となることが多いので、足を運ぶ際には公式サイトで事前に情報をチェックしておくと安心です。入館料は大人でも150円ほどとリーズナブルで、小・中学生は無料なのも嬉しいポイントです。林芙美子の作品を事前に少しでも読んでおくと、彼女の執筆空間や展示品の持つ意味がよりいっそう深まるはずです。とくに代表作の『放浪記』や『浮雲』を読んでいると、作品に描かれた息苦しさや希望、そして人間味が、展示資料を通じてリアルに想像できるようになります。
記念館は多くの観光客が訪れるような華やかなスポットではありませんが、だからこそ静かにゆったりとした時間を過ごすことができます。林芙美子の人生や創作の息づかいを感じながら、日本家屋のもつ温かみと懐かしさを味わいたいという方には、きっと素敵な思い出となるでしょう。普段の東京観光ではあまり注目されない場所かもしれませんが、新宿の中心から少し足をのばすだけでこんなに贅沢な文学散策ができるのだと、改めて実感しました。文学に興味のある方はもちろん、ゆったりとした空気にひたりたい方にもぜひ訪れてみてほしいスポットです。
旅程
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林芙美子記念館
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