夕暮れを迎えると、ふとどこかへ出かけたくなることがあります。この日はマダム・タッソーが19時まで開いていると知り、思い立ってお台場へ向かいました。館内の人形たちと過ごす不思議な時間を抜けると、外はすでに夜の色。海風に当たりながら散歩をしていると、そういえば実物大のガンダムがあったはずだと思い出し、地図で場所を確かめて足を延ばしました。
広場に現れたのは、白い装甲のユニコーンガンダムでした。子どものころにテレビで見ていた“最初のガンダム”の姿をどこかで期待していたので、目の前の機体が新しい世代の象徴に置き換わっていることに、少しだけ肩すかしを食ったような感覚を覚えます。それでも、鋭いシルエットと硬質な白が夜気に映え、見上げるうちに「いま」のお台場には、この機体のほうがよく似合うのかもしれないと納得していきました。1979年に始まった『機動戦士ガンダム』が長く愛され、21世紀に入って『機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)』の物語が広がったことを思えば、像の交代は作品の世代交代そのものを目にする体験でもあります。
実物大と聞くと圧倒的な巨大さを想像しますが、ユニコーンの背後にはフジテレビの球体展望室や商業施設の外壁などスケールの大きな建物が控えています。そのせいか、最初に受けた印象は「意外と小さい?」というものでした。都市の大きさの中に置かれると、18メートルという数字が錯覚を起こすのだと気づきます。けれど、足元に近づいて見上げると、関節の面取りや装甲の段差、脚部のボリュームが急に現実味を帯び、視線が装甲の合わせ目を追うほど、スケールが身体感覚に戻ってきました。
この夜は特別なライトアップは見当たりませんでしたが、周囲の建物が放つ光が装甲に反射し、陰影が自然に浮かび上がっていました。海からの風に人の流れがゆるみ、写真を撮る人々の間にささやかな会話が往来します。昼間の演出を知らなくても、夜の静けさのなかに立つユニコーンは、それだけで十分に「ここにいる理由」を語っているようでした。お台場という人工島が日本のポップカルチャーを受け止めてきた歴史――実物大ガンダム像が観光の象徴として定着してきた歩み――を思い返すと、像は単なる展示物ではなく、時代ごとの憧れを実寸で確かめるための“物差し”のようにも感じられます。
帰り道、遠ざかる機体を振り返ると、肩の角度やアンテナの輪郭が、ビルの明かりに縁取られていました。幼い頃に胸をときめかせた初代の記憶と、いま目の前にあるユニコーンの佇まい。その間に流れた年月を、東京湾の風がさらりとつないでくれた夜でした。世代が替わっても、実物大の前に立つと人はきっと同じように見上げ、同じように想像します。作品の歴史と自分の時間が重なる、その交差点にお台場の広場があるのだと感じました。
旅程
(略)
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マダム・タッソー東京
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台場駅
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