最近、昼休みのウォーキングを続けていたます。四ツ谷駅のあたりを歩いていて、ふと静かな門構えに惹かれて心法寺(しんぽうじ)に立ち寄りました。通りの足音が背後に遠のくと、境内に流れる空気が一段やわらぎ、歩調も自然とゆっくりになります。オフィス街の喧騒の中に、時間だけが少し巻き戻るような感覚がありました。
案内を読むと、心法寺はもともと三河の泰法寺を起源とし、徳川家康の江戸入府に伴って移ってきた由緒を持つとあります。自分自身も三河の出身なので、江戸と三河をつなぐこうした縁に出会うと、どうしても足を止めてしまいます。東京を歩いていると、ときどき家康ゆかりの寺社にぶつかることがあり、江戸が新たに築かれる中で各地の寺院が呼び寄せられ、街の骨格をかたちづくっていった流れを実感します。
境内は大寺院のような華やかさはありませんが、建物の配置や植栽に落ち着きがあり、近所の方がそっと手を合わせていく姿が似合う場所でした。昼の短い滞在でも、門をくぐる前と後で体の力の抜け方が違い、ウォーキングの途中にこうした節目を挟むことで、気持ちまで整っていくのを感じます。
掲示には著名な方のお墓がある旨も記されていましたが、墓地は一般公開ではないとのことでした。扉の向こうに積み重なる歴史が確かに息づいているのに、静けさを守るために距離を置く——その配慮に、この場所の時間の密度がかえって伝わってきます。見えないからこそ思いを馳せる、そんな余白が心地よく感じられました。
家康とともに江戸へ移された寺は、単なる移転ではなく、新しい都の精神的な支柱や地域の拠点としての役割を担ったのだろうと思います。道筋の要衝に寺社が置かれ、人々の暮らしを見守ってきた歴史は、いまの都市の景観にも薄く重なっています。四ツ谷のビルの谷間で、心法寺の境内に一歩踏み入れた瞬間に感じた「温度の差」は、そうした積み重ねの名残なのかもしれません。
運動不足解消のためのウォーキングは、体を動かす以上の収穫をくれることがあります。その日は、江戸と三河を結ぶ一本の見えない糸に触れ、遠い土地の時間と自分の足取りが少しだけ重なりました。次に四ツ谷を歩くときも、門前を通ればきっとまた歩幅を落として、江戸のはじまりを思い浮かべながら境内の空気を吸い込みたくなるだろうと思います。
旅程
四ツ谷駅
↓(徒歩)
↓(徒歩)
四ツ谷駅
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