米沢観光の合間に立ち寄った「東光の酒蔵」は、町家の静けさと蔵の迫力が同居する、不思議に落ち着く空間でした。
入口の部屋には、低い帳場机にそろばん、壁掛け電話やレジといった道具が並び、商家の営みがそのまま切り取られたように展示されています。
外には小さな庭も配され、ここがかつて大きな商家であったことを物語っていました。
酒蔵に入ると、巨大な木桶が何列にも連なり、ほの暗い蔵の空気と相まって圧巻です。
台所のかまどは行き届いた設えで、客間の座布団や壺にも洒脱さが漂い、いかにも財を成した酒造家の趣を感じました。
ここを営む小嶋総本店は、安土桃山期の慶長2年(1597年)創業という古参の蔵で、米沢藩主・上杉家の御用酒屋を務めた歴史を持ちます。創業年や上杉家との関わりは、蔵の案内や各種紹介でも繰り返し語られる核となる物語で、米沢の文化史の一頁をなしています。
銘柄名「東光」は「米沢城の東側、朝日が昇る方角の酒」に由来し、城下町の地理と日の出の象徴性を重ねた名付けが粋です。名は体を表すという通り、蔵の中にも「朝(あした)」の清々しさを思わせる凛とした気配が漂っていました。
資料館として整えられた現在の酒蔵は、東北でも最大級の展示規模を誇り、明治期の造り酒屋の風情を体感できるつくりです。冷やりとした蔵気、梁や大黒柱の質感、自在鉤にかかる鉄瓶まで、時間を巻き戻す仕掛けがそこかしこに置かれており、見学後に併設の売店で利き酒まで楽しめる導線もよく考えられていました。
午前中に上杉神社を参拝してから訪れたこともあり、城下の信仰と産業が歴史のなかで結びついてきたことを改めて実感しました。上杉鷹山の資料を併設展示で目にすると、質素倹約と殖産興業の思想が、米沢の酒を支えてきた背景に自然と重なって見えてきます。
古道具から大桶、台所のかまどに至るまで、展示は派手さよりも「本物の手触り」を大切にしている印象でした。米沢の町で積み重ねられた時間が、蔵の木目や道具の擦り跡に宿り、それが一杯の酒になるまでの物語を静かに語ってくれます。歴史の記憶に触れながら、職人の技と町の誇りを五感で味わえる場所でした。
旅程
東京
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米沢駅
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(中略)
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米沢市上杉博物館
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