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8月, 2025の投稿を表示しています

第五福竜丸展示館:過去を運ぶ器という航路に乗り換えた船

夢の島の緑の中に現れた第五福竜丸展示館に入ると、建物の芯をなすように巨大な船体が横たわっています。最初はそれがあまりに大きく、ただの壁のように見えてしまいましたが、足元のフロアに近い位置にスクリューがあり、そこでようやく私は、これが海を走っていた船なのだと実感しました。船は、海の記憶をそのまま抱えてここに収まっているのだと思うと、言葉が自然と少なくなります。 見学の順路は、ガラス瓶に入った白い粉末から始まりました。「死の灰」。説明パネルには、ビキニ環礁で行われた水爆ブラボー実験が想定を超える威力で、サンゴの砂や海水を巻き上げて降り注いだことが記されていました。瓶の中で静かに沈む灰は、ただの粉に見えます。けれど、その無機質な白さが、目に見えない放射能の重さや、突然日常を奪われた人びとの時間を、逆に鮮やかに立ち上がらせるように感じました。 船と乗組員たちに何が起きたのかを追う展示は、淡々としているからこそ胸に迫ります。甲板に降り積もった灰、皮膚の異変や体調不良、そして無線長・久保山愛吉さんの死。記録の一つひとつは、悲劇を語る言葉よりも静かですが、だからこそ現実の重力を失いません。「原水爆の被害者は私を最後にしてほしい」という言葉に出会うと、展示室の空気がさらにひんやりとし、足取りが自然とゆっくりになりました。 第五福竜丸の被曝は、船の上だけで完結しませんでした。市場に並ぶ魚への不安が広がり、「原子マグロ」という言葉が世の中を渦巻きました。展示は、漁業や流通、消費の現場まで広がった動揺を、新聞の見出しや検査体制の資料で静かに伝えています。数字や図表の向こう側で、食卓に座る家族の姿が目に浮かびました。食べることの安心が揺らぐとき、社会の平静もまた揺らぐのだと改めて思います。 この館が印象的なのは、視線を日本の外へ向ける窓が大きく開かれていることでした。マーシャル諸島の人々が受けた影響、故郷を離れざるを得なかった暮らし、長期にわたる健康不安――地図や写真、証言が並び、海を隔てた遠い出来事が、同じ時間の上にある現実として迫ってきます。核実験の被害は国境を持たないことを、展示は穏やかな筆致で示していました。 さらに、壁の一隅では「ラッセル・アインシュタイン宣言」が紹介され、科学者たちの言葉が時代を越えてこちらを見つめていました。核兵器がもたらす問いは、技術の進歩そのものへの問いか...

東京都埋蔵文化財センター:令和7年度企画展示「土の中のトーキョー ~近代考古学事始~」

東京都多摩にある東京都埋蔵文化財センターを訪れました。 今回の訪問では、ちょうど企画展「土の中のトーキョー ~近代考古学事始~」が開催されていたので、まずはその展示からじっくりと見学しました。 この企画展では、普段あまり意識することのない近代の埋蔵物に光が当てられていました。会場に足を踏み入れると、江戸時代後期から明治、大正、そして戦前にかけての生活の痕跡が、さまざまな遺物として並んでいました。中でも目を引いたのは鉄道関連の標識や水道管、そして煉瓦や食器、瓶、缶などの身近な品々です。 特に江戸時代の木製水道管は、現代のイメージからは想像もできず、その技術と工夫に驚かされました。当時の人々がどのように水を引いていたのか、身近な道具を通して歴史を感じることができました。 常設展にも足を運ぶと、多摩地方から発掘された旧石器時代の石器や縄文時代の土器が展示されていました。こうした展示品からは、この土地に人が暮らし始めた遠い昔に思いを馳せることができます。また、時代が進むごとに展示される品々も変わり、弥生・古墳・中世、そして近代と、人々の暮らしや技術の変化が一目で分かるように構成されていました。 体験コーナーも充実しており、子どもから大人まで楽しめる工夫が随所に見られました。例えば、粘土に縄文の模様をつけて自分だけのミニ土器を作れるコーナーや、古代の服や道具を身につけて当時の暮らしを体感できるコーナー、さらに火起こし体験ができる場所もありました。展示を見るだけでなく、実際に手を動かして古代の技術を感じることができるのは、とても貴重な体験だと思います。 東京都埋蔵文化財センターは、考古学や歴史に関心がある方はもちろん、家族連れにもおすすめの場所です。日々の生活の延長線上にある「身近な歴史」に気づかされると同時に、現代と過去がつながっていることを実感できる、学びの多いひとときとなりました。 旅程 多摩センター 駅 ↓(徒歩) 東京都埋蔵文化財センター ↓(徒歩) 多摩センター 駅 関連イベント 令和7年度企画展示「土の中のトーキョー ~近代考古学事始~」 周辺のスポット サンリオピューロランド 地域の名物 関連スポット リンク 東京都埋蔵文化財センター