光源寺から東に進むと文京区立森鴎外記念館(ぶんきょうくりつもりおうがいきねんかん)に見えてきます。
文京区千駄木の閑静な住宅街に佇む「文京区立森鴎外記念館」は、明治の文豪・森鴎外の足跡を辿ることができる貴重な場所です。この記念館は、森鴎外が晩年を過ごした旧居「観潮楼」の跡地に建てられており、2012年に彼の生誕150周年を記念して開館しました。文学ファンのみならず、歴史や建築に興味のある人々にとっても魅力的なスポットです。
記念館へ足を踏み入れると、まず目に入るのは和モダンな建築デザイン。シンプルで洗練された空間は、森鴎外の知的で落ち着いた雰囲気を彷彿とさせます。館内には、自筆原稿、愛用品、書簡などの貴重な資料が並び、彼の多面的な人物像に迫ることができます。また、鴎外が軍医総監として活躍した経歴や、ドイツ留学時代のエピソードにも触れられており、文学だけでなく、医療や国際交流の観点からも楽しめる内容となっています。
常設展示では、代表作『舞姫』や『雁』にまつわる資料が特に目を引きます。彼の作品世界がどのように形成されたのか、背景にある時代の空気感が伝わってくる構成となっており、作品を読み返すきっかけにもなるでしょう。また、定期的に開催される企画展示では、森鴎外の交友関係や影響を受けた文化など、さまざまな切り口で新たな発見が得られます。
現在は、鴎外の妹の小金井喜美子(こがねい きみこ)に関するコレクション展「鴎外の妹・喜美子の家族 ―森家と小金井家―」が開催されています。
記念館の中庭には、「観潮楼」時代から残る井戸跡が保存されており、当時の面影を感じさせます。静かな庭を眺めながら、鴎外がどのような思索を巡らせていたのか想像するのも、この場所ならではの楽しみ方です。さらに、近隣には鴎外の墓がある谷中霊園や、彼が歩いたであろう本郷・根津エリアも散策できます。
森鴎外の文学世界に触れることで、過去と現在が静かに交錯する感覚を味わえる「文京区立森鴎外記念館」。日常の喧騒から離れ、知的なひとときを過ごしてみてはいかがでしょうか。
小金井喜美子
円本
1920年代の日本では、大きな社会の変化とともに、新たな読書文化が花開いていきました。その象徴ともいえるのが「円本(えんぽん)」と呼ばれる書籍の登場です。円本とは、その名の通り一冊一円で販売された文学全集や叢書のことを指します。今日の感覚では想像しづらいかもしれませんが、当時はこの「一円」という価格が画期的だったのです。
背景には、都市化と産業化の進展により、中産階級が急速に台頭したという時代の流れがあります。多くの人々が教養や知的な娯楽を求め始めた中で、文学への関心も高まりました。しかしながら、それまでの文学書は高価であり、一部の教養層にしか手が届かないものでした。そうした状況に変化をもたらしたのが、この円本の登場だったのです。
円本の代表的なものには、改造社が1926年に刊行を始めた『現代日本文学全集』があります。これは、毎月1冊ずつ定期的に刊行される仕組みで、書店で購入するだけでなく、予約購読を通じて確実に読者のもとに届けられるというスタイルでした。春陽堂の『日本文学全集』や、新潮社の『世界文学全集』など、他の出版社も競って同様のシリーズを刊行し、円本ブームは瞬く間に全国に広がっていきました。
こうした円本は、価格が安いだけでなく、装丁も上質で美しく、書棚にずらりと並べることができることも人気の理由の一つでした。内容も、芥川龍之介、志賀直哉、谷崎潤一郎、夏目漱石など、当時の文壇を代表する作家たちの名作が収められており、文学ファンにとっては夢のような叢書だったのです。
円本の登場は、読書の大衆化という点で非常に大きな意義を持っていました。これまでは限られた層しか読まなかった純文学を、多くの人々が手軽に楽しめるようになり、作家たちにとっても収入と名声を得る新たなチャンスとなりました。出版業界においても、装丁や編集の工夫、販売戦略の革新といった動きが活発になり、現代に通じる出版文化の基礎が築かれていきました。
やがて、昭和恐慌や紙の価格高騰といった経済的要因により、円本ブームは1930年代の半ばには沈静化していきます。しかしその精神は、戦後の文庫本や全集へと受け継がれ、今でも日本の読書文化に脈々と息づいているのです。
文学を広く社会に届けようとしたこの「円本」という試みは、単なる出版ブームにとどまらず、文化の裾野を大きく広げた一つの革命だったと言えるでしょう。
旅程
茗荷谷駅
↓(徒歩)
小石川植物園(休園日)
↓(徒歩)
井上円了記念博物館(入試中で入構禁止)
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↓(徒歩)
↓(徒歩)
田端駅
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