奈良の東大寺ミュージアムを初めて訪れました。今回は奈良国立博物館で正倉院展を見た後、同じ「天平の息づかい」を別の角度から感じてみたくて足を延ばしました。東大寺そのものは前回の奈良訪問で拝観していましたが、伽藍に寄り添うように設けられたこのミュージアムは、寺の歴史と信仰を落ち着いた空気の中で確かめられる場所でした。
導入の紹介ビデオでは、聖武天皇が大仏造立の詔を発し、国家の安寧と人々の幸せを祈って東大寺の建立が進められたことが語られていました。当時の日本の人口の半分ほどが何らかの形で関わったという説明は、規模の大きさだけでなく、信仰が社会の広い層に浸透していたことを実感させます。単なる史実紹介にとどまらず、祈りの言葉が静かに染み込むような映像で、ここが観光施設ではなく「寺の展示室」であることに気づかされました。
展示室では、寺内に伝わる仏像や工芸が、修理の痕跡や制作技法の解説とともに並び、東大寺の長い時間が立体的に見えてきます。南都焼討や度重なる災禍を経ながらも、法灯が途切れず受け継がれてきたことを、木肌の色や金銀の擦れに感じ取りました。堂内で仰ぎ見た仏像とは別の距離感で向き合えるのが、ミュージアムの面白さだと思います。
ちょうど特別展示として「正倉院裂」が出ており、黄緑地霰花文錦幡頭などの裂(きれ)の華やかな文様が間近で見られました。正倉院の宝物は国立博物館で拝むものだとつい思い込みがちですが、その由来をたどれば東大寺の祈りの場と不可分であり、一部は寺にも伝来・保存されていることをあらためて知りました。織りの細やかさや色彩の残り方は、千年以上の時を経てもなお、儀礼の場の光と音を思い起こさせます。
正倉院展の余韻を抱えたまま東大寺ミュージアムに入ると、国家的な文化財としての天平と、寺の日常に息づく天平が、二枚重ねの透明なフィルムのように重なって見えてきます。歴史を学ぶことと信仰に触れること、その二つのレンズを切り替えながら歩く時間は、奈良らしい静けさの中で心が整う体験でした。次は伽藍を回る前にもう一度ミュージアムから始め、展示で得た目と心で堂塔の姿を見直してみたいと思います。
旅程
東京
↓(新幹線/近鉄)
近鉄奈良駅
↓(徒歩)
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↓(徒歩)
↓(徒歩)
↓(徒歩)
大和西大寺駅
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