上越の秋を感じながら、戦国の記憶が眠る山へ足を運びました。
コロナ後初の遠出で、午前中は林泉寺などを見学し、昼頃に春日山城跡の麓にある春日山神社に到着しました。境内から北へ延びる道を進むと、直江屋敷跡の表示が現れ、かつて上杉家を支えた家臣団の生活圏がこの山裾に広がっていたことを想像させてくれます。
ゆるやかな登りに体が慣れてくるころ、小さな毘沙門堂が現れ、上杉謙信が信仰した毘沙門天に守られた城であったことを静かに語りかけてきます。
道はよく整備され、落ち葉を踏む音が心地よいリズムになります。山城らしく石垣の壮観はなく、曲輪や堀切、土塁といった土の造形が主役です。やがて本丸に至ると、視界を遮るものの少ない尾根筋に風が通り、石碑がひっそりと往時を示しています。復元建物のない城跡に初めて立った私は、最初こそ拍子抜けしましたが、建物が消えたことでかえって地形の工夫がよく見え、戦国の防御思想が足裏から伝わってくるようでした。紅葉に彩られた尾根伝いの道は、歴史散歩とハイキングのちょうど中間の愉しさがあります。
春日山城は、越後を治めた上杉謙信の本拠として知られる中世の山城です。海と山に挟まれた交通の要衝を押さえ、麓の城下・寺社・在地の屋敷群と一体で機能しました。近世城郭のような壮麗な天守は持たず、自然地形を最大限に活かした曲輪群が連なります。謙信の後、上杉景勝の時代を経て拠点は移り、江戸時代には平城の時代となって山城は役目を終えました。だからこそ、今目にするのは土と森が主役の静かな城跡で、戦国の「現場」をそのまま歩いている実感が残ります。
南側へ下山すると、堂々たる上杉謙信公の銅像が姿を現しました。山上の静謐とは対照的に、ここには写真を撮る人の笑顔が集まります。ちょうど近くに休憩所があったので、少し遅めの昼食にそばをいただき、体の芯まで温まりました。素朴な味が、山道で高ぶった気持ちをやさしく落ち着かせてくれます。食後は、発掘成果や地域の歴史が学べる上越市埋蔵文化財センターへ。山で感じた断片的なイメージが、展示を通じて線で結ばれていくのが心地よく、春日山の一日が学びで締めくくられました。
復元建物がないことは、最初は物足りなく思えるかもしれません。しかし、春日山城跡は、地形そのものが築城の知恵であり、森と土が見せる静かな迫力が最大の見どころでした。紅葉の色づきと澄んだ空気のなか、戦国の息づかいを想像しながら歩く時間は、賑わう観光名所とは違う、じんわりと胸に残る旅の記憶になりました。次に訪ねるときは、別の季節の光と影のなかで、また違った春日山の表情に出会えるのだろうと思います。
旅程
東京
↓(新幹線/えちごトキめき鉄道)
春日山駅
↓(徒歩)
春日神社
↓(徒歩)
↓(徒歩)
↓(徒歩)
↓(徒歩)
↓(徒歩)
春日山駅
↓(えちごトキめき鉄道)
高田駅
↓(徒歩)
平出修の旧居
↓(徒歩)
↓(徒歩)
高田駅
↓(新幹線/えちごトキめき鉄道)
東京
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