修善寺の温泉街をひと通り歩き、独鈷の湯や足湯で体の芯がほどけたところで、地図の少し先に「虹の郷」が見えました。歩くにはやや距離がありますが、まだ午前中です。観光の続きというより、冬の伊豆を散歩しに行く気分で、温泉街の賑わいから少しずつ離れていきました。
入口でチケットを買ってパンフレットを広げると、想像以上に敷地が広く、イギリス村、カナダ村、匠の村など、文化の異なるエリアがゆるやかにつながっていることが分かります。そもそも虹の郷は、修善寺公園を前身とし、周年で楽しめる誘客施設として整備が進められ、1990年に開園した経緯があります。温泉地の「ついで」に立ち寄れる距離感でありながら、時間の使い方次第で一日分の散策にもなる、そんな成り立ちが納得できました。
入口付近のイギリス村に入ると、まず目に飛び込んできたのがロンドンの二階建てバスでした。テーマパークの“作り物らしさ”というより、街角に偶然置かれているような存在感があり、ここから気分が切り替わっていきます。トーイミュージアムでは、古いぬいぐるみやからくり人形が静かに展示されていて、子どもの遊び道具というより、時代ごとの「人が夢中になったもの」の記録として見えてきました。すぐ近くには鉄道模型の展示もあり、ミニチュアの世界が精密に組み上がっている様子に、旅先でふと時間を忘れる感覚がありました。
園内の奥へ進むには、ロムニー鉄道に乗るのが分かりやすい選択でした。イギリス村のロムニー駅からカナダ村のネルソン駅を結ぶこの園内鉄道は、英国製の15インチゲージ車両が走ることが特徴で、約2.4kmの区間を結んでいます。歩いても行ける距離ですが、冬の空気の中で小さな列車に揺られる体験は、移動そのものが「展示」の一部になっているように感じました。
ネルソン駅に着くと、建物の雰囲気ががらりと変わり、カナダ風の街並みが続いていました。コロナ前に最後に行った国がカナダだった、という記憶が不意に立ち上がり、旅先で別の旅を思い出す、少し不思議な懐かしさがありました。ネルソンホールは中が万華鏡のミュージアムになっていて、国内外の作家の作品が展示されていました。覗き込むたびに、同じ筒の中で色と形が別の宇宙を作り直していくようで、短い滞在でも気持ちの切り替えが起こります。
カナダ村をひと通り見学した後は、匠の村へ向かいました。途中の日本庭園は真冬で、花や新緑の華やかさはありませんでしたが、そのぶん枝ぶりや石組みの輪郭がはっきりして、静かな庭の時間が流れていました。季節が“足りない”のではなく、季節が“削ぎ落とす”ことで見えるものがある、と感じられる道でした。
匠の村には復元された古民家が並び、家の中には江戸時代あたりから昭和の暮らしまでを思わせる道具が置かれていました。古い服や家具、白黒テレビや黒電話といった展示は、豪華な歴史ではなく、日々の生活がどう変わってきたのかをまっすぐに語ってくれます。触れて遊べる古い玩具もあり、見るだけでなく「体の感覚」で昔をなぞれるのが印象的でした。
ちょうどお昼どきになり、そばとお団子で小休止をしてから、虹の郷を後にしました。温泉街の散策から始まり、イギリスとカナダの“街並み”を経て、最後は古民家の暮らしへ戻ってくる。この園内の流れは、世界旅行のダイジェストというより、文化の違いを歩幅でつなぐ散歩のようでした。そして次に向かった韮山反射炉では、今度は近代化の技術史が待っています。同じ伊豆の一日でも、テーマが変わるたびに視点が切り替わり、旅の密度が上がっていくのを実感しました。
旅程
東京
↓(新幹線/伊豆箱根鉄)
修善寺駅
↓(バス)
修善寺温泉バス停
↓(徒歩)
日枝神社(修善寺)
↓(徒歩)
↓(徒歩)
独鈷の湯
↓(徒歩)
(略)
↓(徒歩)
指月殿
↓(徒歩)
↓(バス)
修善寺駅
↓(伊豆箱根鉄道)
伊豆長岡駅
↓(徒歩)
↓(徒歩)
伊豆長岡駅
↓(電車)
三島駅
↓(徒歩)
↓(徒歩)
源兵衛川
↓(徒歩)
↓(徒歩)
三島駅
コメント
コメントを投稿