京都観光の目的の一つとして、京都鉄道博物館を訪れました。
今回の一番の狙いは鉄道そのものというよりも、特別展の「レーシング&レールウェイ ヒストリー」で、F1観戦が趣味の自分としては見逃せない企画だと思い、予定に組み込んでいました。東本願寺から歩いて向かったため、途中で梅小路公園を通り抜けましたが、公園内にも使用済みの路面電車が展示されていて、「今日はじっくり“乗り物の日”になりそうだな」と感じながら博物館へ向かいました。
京都鉄道博物館に近づくと、手前にどこか懐かしさを感じさせる古い駅舎が見えてきました。最初は現役の駅かと思いましたが、案内を見ると、これは復元された二条駅であり、博物館の出口として使われている建物でした。
昔の駅舎が、出口として静かにたたずんでいる構図は、時間の流れが反転したようでおもしろく感じます。そのまま進むと一転してガラス張りの近代的な博物館の本館が現れ、過去と現在が隣り合わせに並んでいるのが、この施設らしいなと思いました。
館内に入ると、まず目に飛び込んでくるのは0系新幹線や蒸気機関車の並ぶ大きな展示スペースでした。子どもの頃にテレビや写真で見た車両が実物として目の前に並んでいると、特別に鉄道ファンでなくても心が動きます。新幹線や電車の一部は、自分の記憶にある“懐かしい日常の風景”と直結しており、「ああ、この形の車両、昔よく乗っていたな」と思い出が少しずつ呼び起こされました。
館内奥の室内展示エリアに入ると、今回の目的であるF1マシンがいきなり姿を現しました。最初に目に入ったのは、Honda RA107でした。当時、環境保護をアピールするために広告ロゴをすべて外し、マシン全体を緑色、よく見ると地球全体の地図のような模様で覆った、かなり特徴的なデザインのマシンです。高出力のレーシングカーで環境を語ること自体が皮肉だと言われ、「史上最もダサいデザイン」と揶揄されることもあったマシンなので、「数あるF1マシンの中で、あえてこれを選んだのか」と思わず心の中でつぶやいてしまいました。横にはジェンソン・バトンとルーベンス・バリチェロのヘルメットとグローブも並んでおり、当時のチームの狙いや空気感も含めて展示しようとしているのが伝わってきました。
その一角から少し離れた場所には、もう1台のF1マシン、マクラーレンMP4/4が展示されていました。こちらは説明の必要もないほどの伝説的マシンで、アイルトン・セナとアラン・プロストがドライブし、16戦中15勝という前人未踏のシーズンを築き上げた象徴的な一台です。セナとプロストのヘルメットとともに、当時の記念パネルも展示されており、F1ファンとしては、実物の存在感だけでしばらくその場から動けなくなってしまいます。ただ、F1特別展示全体としては、この2台が鉄道車両の横にコンパクトに並べられている程度で、当初イメージしていたような大規模なF1展というより、「鉄道博物館の中の一コーナー」といった規模でした。そのため、最初は「ちょっと外したかな」と肩透かしを食らったような気分にもなりました。
しかし、せっかく来たのだからと気持ちを切り替え、鉄道の常設展示も一通り見て回ることにしました。すると、ここからが思いのほか自分向きの内容でした。歴史のコーナーでは、ワットによる蒸気機関の改良から始まり、トレビシックの蒸気機関車、イギリスにおける鉄道の始まり、そして日本の明治期の鉄道導入へと、産業史としての鉄道の歩みが丁寧に紹介されていました。蒸気機関が単なる技術発明にとどまらず、産業革命や交通、都市のあり方まで変えていった流れが、模型や復元された壁面、制服、資料などを通じてまとまっており、歴史好きとしては非常に満足できる内容でした。
京都にある博物館らしく、関西における鉄道の始まりにも焦点が当てられていました。東海道線の延伸や、京都と大阪・神戸との結びつきが、単なる移動の利便性だけでなく、経済や文化の交流にどのような影響を与えたのかが、当時の写真や路線図とともに示されています。歴史教科書の中でさらっと流されてしまう部分が、具体的な車両や建物、制服という「モノ」と結びつくことで、初めて体感として理解できるように感じました。
昭和時代の駅を実物大で復元したコーナーも印象的でした。ホームや改札だけでなく、駅前にあったであろう駄菓子屋まで再現されており、ここだけ時間が止まったかのような雰囲気が漂っていました。昭和の日本の原風景のような空間で、多くの海外からの観光客が駄菓子屋の展示を興味深そうに眺めている姿が印象的で、「日本人にとってのノスタルジー」が、外国の人には一種の“エキゾチックな街角”として映っているのだろうなと感じました。
さらに、鉄道と電力の関係を紹介する発電所の説明コーナーもありました。鉄道の話になると、つい車両や路線に意識が向きがちですが、実際には膨大な電力インフラとセットで成立していることが改めて分かります。鉄道を通じて、エネルギーやインフラ全体の構造に目を向けさせようとする姿勢が感じられ、単なる“鉄道ファン向け”だけで終わらない展示構成になっているのが好印象でした。
2階に上がると、特別展の「TRAin ART~アートする世界の鉄道展~」が開催されていました。ここでは、鉄道を題材にした絵画や版画が数多く展示されており、ストックトン・ダーリントン鉄道の開業風景を描いた作品に始まり、明治時代の日本の鉄道を描いた錦絵など、視覚的な楽しさと歴史的な情報が一体になった展示でした。純粋に絵画としても見応えがありますが、「鉄道がどのように人々の目に映り、どのように表現されてきたか」をたどる歴史資料としても非常におもしろく、つい見入ってしまいました。ミュージアムショップでこの展覧会の目録が販売されていたので、記念と復習用に購入してしまったのも自然な流れだったと思います。
同じく2階には、電車内のデザインを紹介するコーナーもありました。座席、つり革、仕切りなど、車両内部の設備を「アコモデーション」と呼ぶことをここで初めて知りました。新幹線にかつて設置されていた冷却飲料水の機械も展示されており、子どもの頃に見かけた記憶があるような、ないような、不思議な懐かしさを感じました。こうした細部のデザインの変遷を見ると、鉄道が単なる移動手段ではなく、「長時間過ごす生活空間」として磨かれてきた歴史も垣間見えます。
館内には他にも、大きなジオラマで鉄道網の動きを再現したコーナーや、屋外には転車台と多数の蒸気機関車が並ぶエリアもありました。機関車トーマスの姿もあり、子どもたちの人気を一身に集めていました。最後に出口へ向かう際、再び復元された二条駅舎の中を通り抜けましたが、木造の柱や窓枠からは、明治・大正の空気が今もわずかに残っているようで、改めて「鉄道は時代そのものを運んできた存在なのだ」と感じました。
最初にF1展示の規模を見たときは、「ちょっと失敗したかな」と思ったのも事実ですが、結果的には、鉄道史、産業史、アート、デザイン、インフラと、思いがけず多方面に広がる内容に引き込まれてしまい、当初の予定時間を大きく超えて滞在してしまいました。最後の方は時計を気にしながら駆け足で展示を見て回ることになり、少しもったいないことをしたなと感じるほどでした。
博物館を出たあとは、時間が押していたこともあり、梅小路公園の屋台で小籠包をさっとつまみ、次の目的地である京都文化博物館へ向かいました。F1をきっかけに訪れた京都鉄道博物館でしたが、結果として、鉄道という窓を通して近代以降の社会の変化をじっくりたどる時間になり、思っていた以上に心に残る訪問となりました。
旅程
東京
↓(新幹線)
京都駅
↓(徒歩)
↓(徒歩)
↓(徒歩)
↓(徒歩)
梅小路京都西駅
↓(JR/地下鉄)
烏丸御池駅
↓(徒歩)
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↓(徒歩)
↓(徒歩)
↓(徒歩)
東山駅
↓(地下鉄)
京都駅
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