東京都豊島区のトキワ荘マンガミュージアムを見学したあと、椎名町駅へ戻る途中で「トキワ荘通り昭和レトロ館」に立ち寄りました。マンガの余韻が残ったまま歩いていると、通りの空気がどこか懐かしく、寄り道というより「もう少しだけ時間を巻き戻してみよう」という気分になりました。
館内に入ると、まず1階は漫画の図書館のような空間になっていて、新旧さまざまな漫画が並んでいました。作品そのものは時代を超えて読まれ続けますが、背表紙が並ぶだけで「その時代の暮らし」や「当時の熱量」まで一緒に立ち上がってくるのが漫画の面白さだと思います。トキワ荘の周辺で漫画を読むというだけで、紙の匂いまで含めて、少し特別な体験に感じられました。
2階に上がると、昭和の生活空間が再現されていました。日本間にちゃぶ台、押し入れ、やかんといった道具が置かれていて、自分が子どものころにはたしかに身近にあった光景です。けれど、いま改めて見ると「当たり前だったはずのもの」が、展示物として成立するほど遠くなっていることに気づかされます。畳の部屋はフローリングへ、低い卓はダイニングテーブルへ、押し入れはクローゼットへと、気づけば暮らしの形は少しずつ塗り替えられてきました。大きな事件があったから一気に変わったというより、便利さや価値観の変化が積み重なって、いつのまにか標準が入れ替わったのだと思います。
別の部屋には、昭和時代のおもちゃも展示されていました。風車、お手玉、万華鏡といったものは「古い時代の玩具」として分かりやすい一方で、野球盤やリカちゃん人形のように、こちらの記憶に直接つながるものもありました。懐かしいという感情より先に、「あれももう40年、50年近く前のものなのか」と、時間の経過を数字で突きつけられるような感覚になります。昭和という言葉から、戦前戦後の白黒写真の世界を思い浮かべがちですが、昭和は1926年から1989年まで続いた長い時代で、1970年代や1980年代も紛れもなく昭和です。高度経済成長を経て、家電や娯楽が家庭に入り込み、生活の標準が塗り替えられていった時期も、すでに半世紀近く前になっているのだと思うと、不思議な遠さがあります。
さらに、昭和の町並みをジオラマで再現した展示もありました。縮尺の世界なのに、そこには確かに「人が暮らしていた気配」があります。看板や路地、家の並び方といった細部を眺めていると、昭和が単なる年号ではなく、生活の総体として立ち上がってくるようでした。現代の街が便利で洗練されるほど、失われたものもまた輪郭を帯びて見えてきます。例えば、押し入れを開けたときの木の匂いや、ちゃぶ台を囲んだときの距離感のような、数値化できない感覚です。
トキワ荘マンガミュージアムで漫画の歴史に触れ、その流れのまま昭和レトロ館で生活の歴史に触れると、文化と暮らしが一本の線でつながって見えてきました。漫画が生まれ、読まれ、語られてきた背景には、その時代の部屋があり、道具があり、遊びがあり、街がありました。昭和を「懐かしい」と一言で片づけるのではなく、「自分の記憶の中にも確かに残っている歴史」として確かめられる場所だったように思います。椎名町駅へ戻る道すがら、さっき見た展示が頭の中でじわじわと現代の風景に重なって、少しだけ街の見え方が変わりました。
旅程
椎名町駅
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トキワ荘マンガミュージアム
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トキワ荘通り昭和レトロ館
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椎名町駅
周辺のスポット
- トキワ荘マンガミュージアム
- トキワ荘跡地モニュメント
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