バルセロナ観光の二日目、朝からガウディの建築を見てまわる中で訪れたのがカサ・ミラでした。すでにカサ・バトリョを見たあとだったこともあり、この日はガウディが都市の中に残した独特の世界を続けてたどるような時間になっていました。街の中を歩いていると、やがて現れた建物は、やはり一目でただものではないと分かる姿をしていました。直線を強調した一般的な建築とはまったく違い、外壁は波のようになめらかにうねり、全体がまるで生き物のように見えました。石の大きな塊がやわらかく動いているようにも感じられ、ガウディらしい曲線美が強く印象に残りました。
カサ・ミラは、20世紀初頭に実業家ペレ・ミラのために建てられた集合住宅で、ガウディ後期の代表作の一つとして知られています。建設は1906年に始まり、1910年ごろに主要部分が完成しましたが、その大胆すぎる外観は当時の人々に驚きを与えました。現在では高く評価されているこの建物も、当初はその前衛的な姿ゆえに賛否を呼び、「ラ・ペドレラ(石切り場)」という愛称で呼ばれたといいます。たしかに、整った左右対称の美しさではなく、削り出した岩肌のような荒々しさと、自然物のようなやわらかさが同居しており、その呼び名にもどこか納得できるものがあります。
現地で実際に建物を前にすると、写真で見るのとは違う迫力がありました。特に印象的だったのは、外壁の石の曲面と、バルコニーの鉄細工の組み合わせです。バルコニーの装飾は、植物のつるや海藻、あるいは風に舞う何かの破片のようにも見え、規則正しく整えられているというより、自然の中で偶然生まれた形をそのまま留めたような印象がありました。建築を構成する一つ一つの要素が、単なる機能や装飾を超えて、有機的な全体の一部になっているように感じられます。ガウディは自然界の造形から多くを学んだ建築家ですが、その考え方が都市の真ん中にこれほど大胆な形で実現していることに、あらためて驚かされました。
この日は建物の前に多くの人が列をなしていました。バルセロナを代表する観光名所の一つだけあって、訪れる人の多さにもその人気の高さが表れていました。私自身は体調があまり良くなかったこともあり、さらに長い列を見て、無理をせず外観だけを眺めることにしました。旅行では、予定していた場所の中に入れないと少し残念に感じることもありますが、こうした建物は外から見るだけでも十分に得るものがあります。むしろカサ・ミラのような建築は、街路の中で周囲の建物と並びながら、それでも明らかに異質な存在として立ち現れるところに面白さがあるのかもしれません。室内や屋上に入らなくても、この建築が街に与えているインパクトはよく伝わってきました。
カサ・ミラは見た目の美しさだけでなく、構造の面でも革新的でした。ガウディは建物内部で壁に頼りすぎない設計を取り入れ、採光や通風にも工夫を凝らしています。中庭を設けることで光や風を取り込み、都市住宅でありながら閉塞感の少ない空間をつくろうとしました。屋上の煙突群もよく知られており、まるで兵士や彫像のように並ぶその姿は、後の時代のデザインにも大きな影響を与えました。今回は内部を見学しませんでしたが、外観を見ているだけでも、この建物が単なる豪華な住宅ではなく、住まいと芸術と技術の境界を押し広げようとした試みだったことは十分に感じられました。
また、カサ・ミラは現在、ガウディ建築群の一つとして世界遺産にも登録されており、バルセロナという都市そのものの文化的価値を象徴する存在にもなっています。ガウディの建築は、単体で完結する芸術作品というより、街歩きの中で次々と出会うことで、その多様さと一貫性が見えてくるところに魅力があります。この日も、カサ・バトリョの幻想的な外観を見たあとにカサ・ミラを訪れたことで、同じガウディの作品でも表情がかなり異なることがよく分かりました。華やかで色彩豊かな建物のあとに、石そのものの重みと曲線で勝負するような建築を見ると、ガウディという建築家の引き出しの多さを実感します。
結局この日は中には入らず、外からその姿をしっかり目に焼き付けたあと、次の目的地であるリベルタト市場へ向かいました。しかし、旅を振り返ると、カサ・ミラは「入れなかった場所」ではなく、「外から見ただけでも強く印象に残った場所」として記憶に残っています。旅行では、予定通りにすべてをこなすことよりも、その場で感じた空気や、建物を前にしたときの驚きのほうが、あとになって鮮明に思い出されることがあります。カサ・ミラもまさにそうした場所でした。ガウディが石に与えたうねりと動きは、100年以上を経た今もなお古びることなく、バルセロナの街角で静かに、しかし圧倒的な存在感を放ち続けていました。
旅程
(略)
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カサ・バトリョ
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リベルタト市場
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ホテル
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