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旧朝倉家住宅:和の基調に西洋の便利さを一滴

渋谷・代官山の高台にある旧朝倉家住宅を訪ねました。最初は大名屋敷のような江戸の威容を想像していましたが、実際に足を踏み入れると、大正の空気をそのまま包み込んだ住まいでした。都市が急速に近代化した時代に、地域の名望家が暮らした屋敷で、武家の記憶と新しい生活様式が穏やかに同居しています。

主屋は和洋折衷のつくりで、中心は畳敷きの日本間です。ふすまや棚には豪奢になり過ぎない、けれど手の込んだ意匠が施され、日常の所作の中でふと目が留まる上品さがありました。

茶室も備わり、客を招き四季を愛でる時間がここに息づいていたのだろうと想像します。

一方で、トイレや会議室は洋式で、洋間も一部に限って取り入れられていました。華族や財閥の社交を想定した過剰な洋化ではなく、必要な機能を最小限に導入した実用本位の近代化が、この家の性格をよく表しています。

庭は、最初に「池が見当たらない」と思いましたが、地面に沿って水が通った痕跡のような溝が延び、かつての遣水を思わせます。敷地は想像以上に起伏があり、ゆったり散歩というより軽いハイキングの趣きでした。斜面に沿って植栽が段々に続き、立ち位置が変わるたびに景色が切り替わっていきます。渋谷の谷地形を活かした庭づくりは、静けさと動きの両方を感じさせ、都会の真ん中にいることを忘れさせてくれます。

畳の弾力や木の匂い、障子越しのやわらかな光に包まれていると、和の暮らしの基調を大切にしながら、必要なところだけ西洋の利便を借りた大正の感覚が自然と伝わってきます。大名屋敷の壮大さとは別の、生活に根ざした美しさ。派手さではなく、毎日の使い心地のよさを磨き上げた結果としての上質さに、静かな説得力がありました。

家を出るころには、「豪華絢爛」ではなく「ていねい」という言葉が心に残りました。歴史は教科書の出来事だけでなく、暮らしの積み重ねの中にも息づいている――旧朝倉家住宅は、その当たり前の事実を、木の手触りと斜面の足ざわりで教えてくれる場所でした。

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